日本でアニマルウェルフェア(動物福祉)を議論する上で知っておいてほしいこと。

こんにちは。ぽてっちです。
今日は前回の続きです。

前回はアニマルウェルフェアとは何か?どんな影響があるか?などについてお話しました。
今日は皆さんがアニマルウェルフェアを議論する上で知っておいてほしいことや、私自身の考えについてお伝えしたいと思います。
前回の記事はこちら↓

こんにちは。ぽてっちです。 歯茎に口内炎ができました。 超痛いです。 Twitterで賛否両論になったアニマルウェルフェアという考...

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日本でアニマルウェルフェアを議論する上で知っておいておいてほしいこと

日本でアニマルウェルフェアを議論する上で皆さんに知ってほしいことは主に2つ。

  • アニマルウェルフェアはお金がかかる!
  • 日本で畜産をやる事自体とっても難しい!

です。
順番にお話ししていきます。

アニマルウェルフェアはお金がかかる

まず一つめ。
アニマルウェルフェアはお金がかかる」って、どういう意味でしょうか?

これは、従来の飼育方法よりもコストが上がってしまうという事です。

前回の記事でもお話しましたが、アニマルウェルフェアの考え方に即した畜産を行うには、鶏1羽あたり(または豚や牛1頭当たり)の使用面積を広くしなければいけません。
採卵鶏ではケージ飼いの禁止、豚はストール柵内での飼育禁止、酪農での放牧飼育などがあります。

飼養面積以外にも、デビーク(ニワトリのくちばしの切断。つつき合いによるケガなどの防止対策として)の禁止、子豚の去勢の禁止、ウシの断尾の禁止などなど挙げればキリがありません。

採卵鶏を例にあげてお話していきましょう。
養鶏場では一つの鶏舎内に何段もケージを積み重ねており、しかもそのケージの中にもかなりの密度でニワトリが飼われています。
農林水産省では、アニマルウェルフェアの考え方に対応した採卵鶏の飼養管理指針として、従来のケージよりも広く、巣箱等が付属している「エンリッチドケージ」を挙げています。

エンリッチドケージで飼育するには、従来のバタリーケージをすべて破棄して、新たにエンリッチドケージを購入・設置する必要があります。

ただ、ヨーロッパ諸国の流れを見る限り、そもそもケージで飼育すること自体が禁止になり、いずれは平飼いや屋外での放し飼いにシフトしていくでしょう。

いずれにしても、現状の畜産農家がアニマルウェルフェアに対応するためには、同じ面積で使用羽数(頭数)を減らすか、新たに農地を広げて同じ羽数を飼うしかないということになります。

農地を今のままにして生産量を落とす。
あるいは農地を増やして生産量は今のまま。

卵やお肉の価格が上がることは明白ですよね。

どのくらい値段が上がるかは定かではありませんが、参考までに海外の卵の値段を。

ヨーロッパやオーストラリアの卵の価格は1パック約500~700円です。
日本の約3倍ですね。
将来的に日本でケージ飼いが禁止されたら、この程度の値上げは覚悟しなければいけないかもしれません。
(お肉の値段は1.5倍~2倍程度の上昇で抑えられるかもしれません。)

日本では畜産をすること自体が難しい

採卵鶏であれば平飼い、ブロイラーは1羽あたりの飼養面積の増大、養豚であればフリーストールなど。
これらには広大な土地が必要になります。

国土の狭い、山間地ばかりのこの国が
さあ、アニマルウェルフェアやろうぜ!
と言ったところでそう簡単にできるでしょうか?
とても難しいと思います。

そして私は、そもそも今の日本で畜産をすること自体が非常に難しいことだと思います。

まず立地の問題。
畜産を行うのに理想的な立地は

  • 地下水が豊富(飲み水の確保)
  • 涼しい場所
  • 飼料工場から近く(エサの運賃が安く済む)
  • 食肉処理場も近い(出荷の運賃が安く済む)
  • 消費地(都会)にも近い(畜産物を新鮮に安く運べる)

をなどの条件満たしていると生産効率が良くベストです。
しかし現実はそう簡単ではありません。

というのも、都会から近い場所は住宅や工場が既に沢山建っているからです。

また、近隣住民との臭気問題もあります。

平地でも山奥でも、必ずと行っていいほど近隣に民家があるものですよね。
ここで養豚場をやります、と言おうものなら
汚水を流すな!」「臭いからやめろ!
と猛反対を受けます。

元々何十年も前から畜産を営んできた場所でさえ、後から出来た近隣の新興住宅地の住民から反対運動をされて廃業したケースも沢山ありますからね。

その他にも人材不足や資材費・飼料価格の高騰など、畜産農家にとって厳しい状況が続いています。
この先も日本国内の畜産農家戸数は減り続け、将来的にはコスト重視の大手生産者しか残らないでしょう。

言い方は悪いですが、この先生き残るであろう大手生産者の多くが
生産効率を上げ、美味しくなくても良いから安いお肉を作る
ことに重点を置いているところばかりです。

そういった生産者に対してアニマルウェルフェアを呼び掛けたところで、そんな簡単に
はーい分かりました!
と言ってくれるかは疑問です。
(政府もそれが分かっているから法整備はせず指針程度で済ませているのかもしれません)

アニマルウェルフェアに対する私の思い

私は家畜のエサを作る「配合飼料メーカー」で仕事をしていたので、養鶏場や養豚場の生産者の人と関わる機会がよくありました。

これは動物にとっては辛いだろうなぁと思うことも多かったし、今のコストと販売価格で動物福祉を考えていたらとてもじゃないけど畜産農家がやっていけないだろう、ということも感じました。

私は動物に対してできるだけ苦痛を与えない、という姿勢は賛成です。
ただ、色々な人の立場や事情を見てきたので、現時点では日本にもアニマルウェルフェアを!と声高に意見することは正直できません。

ただ、アニマルウェルフェアや動物の権利に対して思うことは色々あるので聞いて下さい。

その1:私たちは、残酷だ。

肉、魚、野菜、果物、海藻、きのこ…
私たちは生きていくために、必ず何かを食べなければいけません。
そして食べ物は、すべて生きていたものです。
サプリメントだって何かの生物を原料に製造したものです。

体よく「命をいただく」と言えば聞こえは良いですが、結局
自分が生きるために他の生き物を殺している」だけです。

菜食主義者だって、動物は殺していないけど植物の体の一部をもぎ取ったり殺したりして自分の血肉にしています。
痛いよ!やめてよ!と言わないだけで本当は嫌がっているかもしれません。
この事実は生きていく限りどうしようもないし、人間が生き物を殺さずに生きていく方法は今のところありません。

仮に私たちに出来ることがあるとすれば、「我々は沢山の命を犠牲にして生きているということ」を認めることだと思います。

生物を殺さないと生きていけない。とても残酷です。
でも、生き物はみんなそうなんです。

その事実を踏まえた上で、我々に出来ることは何か。
皆さんも一度考えてみてください。

その2:あなたの代わりに誰かが手を下している

豚さんを殺すなんて可哀想!
残虐だ!
狭いところに閉じ込めて育てるなんてひどい!

そうやって安直に批判する人は沢山います。
でも、皆さんが食べているお肉は誰がお肉にしてくれたんでしょう?

あなたの代わりに誰かが動物を飼育したり、出荷したり、と畜したり、解体してお肉にしているんです。

自分がその恩恵を受けているくせに、安直にと畜や畜産そのものに対して「可哀想」という一言で片づけてしまうのは、はっきり言って考えが浅いとしか思えません。
(まぁ畜産の実態を知らない人が多いので無理もないですが)

まずはそういう世界があること、その人たちの存在によって我々の食生活が支えられていることを知ってほしいです。

その3:みんな動物が好きなのは同じ

また、私が畜産の現場で働いている方々と関わる中で感じたのは、
みんな動物が好きという気持ちは同じ
ということです。

農場で飼育する人は、動物の毎日の小さな変化を観察して、

  • 栄養は足りているか?
  • 換気は十分か?
  • 水は飲めているか?
  • 他の個体にいじめられていないか?

などを瞬時に感じ取るそうです。
それって、毎日ちゃんと動物を見ていないと出来ないことですよね。

当時担当していた養豚場の人も「動物が好きじゃないとこんな事できないよ」とおっしゃっていました。
あと、養鶏場で働いていた方も電話した時に「今ね、にわとりと喋ってたんだ~」と言ってました(笑)
愛を感じますよね!

何が言いたいかと言うと、畜産関係者だって嫌な思いをしながら手を下してるんだよ!ということです。
みんな仕事だし毎日のことなのでもう何も言わないだけで、動物を傷つけることが楽しくて仕方がないなんて人はいませんよ。

その4:「食べる」ことは「生きる」ことそのもの

先ほど、アニマルウェルフェアに即した畜産を日本が数年単位で取り入れるのは非常に難しいという話をしました。
とはいえ、過剰に動物を痛い目に合わせたり、ストレスを与える行為はあってほしくはないというのが私の願いです。

動物が本能的に他の生き物を殺すのって

  • 食べるため
  • 自分の身を守るため
  • 縄張り争い

基本的にはこのどれかなんですよね。
自然界では、他の動物を目的もなく苦しめたり殺したりすることは原則的にはありません。

大昔、人間も肉を食べるためには狩りをして野生の動物を捕まえなければいけませんでした。
当時は武器を使って獲物を一瞬で仕留め、皆でごちそうだと言ってかけらも残さず美味しく食べていたことでしょう。

しかし現在では人口も増え、あらゆる分野において分業が進んだため、人為的に動物を飼育・繁殖させてお肉を得るという手法に変わった。
それが畜産だと私は解釈しています。

上手く言えませんが、「どうせ最後は殺すのだから…」といって劣悪な環境下に置いたり、むやみに傷つけたりするのは自然の摂理に反するのではないかと思います。
「と殺」を「狩り」だとするならば、それまでの繁殖や飼育は出来る限り自然環境に近い状態に持っていくべきではないかと思います。

食べるということは沢山の命の犠牲の上にある行為であり、生きることそのものです。
そしてそれを実感し、認めることこそが命に敬意を払うこと・命を大切にするということだと私は考えています。

最後に一言。「動物福祉のためなら高くても良い」と思えますか?

Meat, Hand

最後に一言。

皆さん。

今後スーパーにも少しずつ増えていくであろう「動物に優しい」お肉や卵。
きっと通常の畜産物よりも高くなることでしょう。

それでもあなたは買いますか?
動物の苦痛が少ないなら高くても仕方ないと思えますか?

今後日本の畜産において「アニマルウェルフェア」という言葉を聞く機会が増えるかどうかは消費者の意識次第だと思います。
需要があれば、供給が増えます。

供給が増えれば、それがスタンダードになります。

アニマルウェルフェアを考えることは素晴らしいことですが、現状の日本の市場で単にそれを唱えることはただの理想論でしかないと思います。

まずは消費者一人一人がこの事について改めてよく考えること。
その結果、安さよりも動物福祉を優先する人が圧倒的に多くなれば法整備も進めていく。
逆に、大多数の人が考えてみたけどやっぱり安さは手放したくないというなら、海外への畜産物輸出を断念してでも現状を維持していくことになるでしょう。

法整備が進めば、卵の特売も安い牛丼も無くなります。
自分の主義のためなら安さを捨てても良いと思えるかどうか。

今後このテーマについて考える機会が更に増えていくことを願います。

それではまた。

参考サイト

アニマルウェルフェアとは、人が動物を飼育・利用する上で、動物の幸せ・人道的扱いを科学的に実現するものであり、動物本来の生態・欲求・行動を尊重するものです。 動物が意識ある存在であることを理解し、たとえ短い一生であっても、動物の生態・欲求を 妨げることのない環境で、適正に扱わなくてはなりません。
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コメント

  1. 一柳憲隆 より:

    弊社ではケージ飼育とエイビアリー飼育を両方扱っていますが、AWについて客観的でわかりやすい記事で、生産者としても消費者に説明する際にはとても参考になります。

    • ぽてっち より:

      初めまして。コメントありがとうございます!
      とても嬉しいお言葉をありがとうございます。

      貴社は先駆けてエイビアリー飼育を行っていらっしゃるのですね。
      このブログがお役に立てれば幸いです。
      今度ともぜひよろしくお願いします^^

  2. アンナ より:

    高くても買いますよ〜。それが命の対価ですから。
    そもそも、食べ物が溢れ余っている現状は異常だと思います。食べ物を粗末にしすぎですよね。
    必要な分だけを生産して消費する…昔はそうだったんじゃないでしょうか。
    社会主義ではないですが。
    日本は動物福祉に対する考えが遅れています。儲けばかりに意識が向き過ぎているとも。
    もっと消費者に意識付けをしていく必要があると思います。 
    その為に、バタリーケージや妊娠ストールなどの現状、動物の辛さをもっとネットやテレビで広めるべきだと思います。「誰かが手を下しているのだから…」と言っても、それをあえて見せずにいるのではとも思います。劣悪な飼育状況やと殺方法を見て不快に思う人が増えれば売上げに影響するからだとも思います。

    • ぽてっち より:

      アンナ様

      初めまして。
      大変遅くなりましたが、コメントありがとうございます。
      これだけ食料余剰が出ているのは、やはり資本主義化が進んだせいではないかと思います。
      日本は食料自給率が低いにも関わらず、大量に廃棄するという無駄だらけ、リスクだらけの状況ですよね。
      昔に戻るというのはなかなか難しいと思いますが、企業や消費者がこれからしっかり意識して変えていかなければいけない問題だと思います。
      そうですね。テレビやネットもですし、アニマルウェルフェアについては政府ももう少し本腰を入れてほしいと思っています。
      日本の畜産農家がアニマルウェルフェアの考えを取り入れた飼育方法で、しっかり儲けを出すにはどうすればいいのか。
      そのためには日本社会全体がどう変わっていかなければいいけないのか。
      課題は山積みですが、大切なことだと思います。